第5回 ラオスの森の作り手たち
〜アジアの手仕事の魅力/クラフトエイドのフェアトレード〜

真ん中で布を手にしている女性は、モン族のイーさんです。ラオスの首都ビエンチャンにある団体の職員で、主に村の生産者とのやり取りやサンプルづくりをしています。

初めてイーさんに会ったのは、2014年8月。「ラオスの森シリーズ」の刺繍をしているモン族の村を訪ねた時に同行していました。

朝待ち合わせの場所で車に乗り込むと、赤いブラウスを着た元気そうな若い女性が乗っています。その隣の後部座席にデザイナーさんと一緒に乗り込むと、挨拶もそこそこに(英語は話せないようです)何か忙しそうにしています。

車は動き出すと、間もなく未舗装道路に出ました。土埃が立ちそうな、雨が降ったら瞬く間にぬかるみそうな、土色の道です。大きな穴、出っ張り、石。日本にいると、コンクリートの真っすぐな道、もしくは、未舗装であっても、おおむね平らな道ばかりですが、この道は「こんなに揺れて車は大丈夫なのか…?!」と心配になるほどのガタガタ道で、前後左右に揺さぶられます。『バッコーン!!』、車の天井から頭が飛び出る「チキチキマシン猛レース」の画像が頭に浮かびました。

後部座席の真ん中で必死に前の座席につかまって揺れと闘う中、ふと隣に座っているイーさんを見ると、なんと、黙々とお化粧をしています(!!)。自分の身体を守るのが精一杯の日本人の横で、平然とお化粧ができるたくましさと技術に脱帽でした。

お化粧が終わると、次にカバンからゴソゴソと出してきたのは、刃渡り20?ぐらいのナイフです(!)。チキチキレースの中、リンゴのような果物をカットして、一切れをナイフにグサッと刺し、「食べる?」。…なんでも食べてみたい私でも、果物よりナイフが気になってしまい、思わず首を横に振ってしまいました。

着いた村は、タンピアウ村というモン族の村。イーさんはこの村出身の女性です。しっかりしているので、数年前からこの団体の職員になったそうです。ここは、内戦で避難していたタイの難民キャンプから、政府によって決められた土地に帰還して作られた村です。

到着するとすぐに出来上がったアイテムを手にみんなが集まってきました。イーさんはそれを受け取り、一枚ずつチェックする担当です。「こんなんじゃダメ。やり直し!」(イメージ)と厳しい顔。

枚数を数え、現金を渡します。みんな表情は真剣そのもの。そして、新しい刺繍のセットを渡していきます。

村の女性たちは、このようなプラスチックのバケツや籠に刺繍の素材を入れて、畑仕事にも持っていきます。ちょっと一休み、と腰かけた時に作業をしていくのです。

村には十分な水がないので、15-20m先に借りている土地でお米を作っています。他にはトウモロコシ、小麦なども作りますが、現金にできるものは主にお米です。

ラオスは昨年各地で大きな水害に遭いましたが、この村も1mほど水没し、村人は一時全員避難していました。それぞれ親戚などを頼ってバラバラに暮らしていたと聞いています。

自分たちの民族の伝統を守りたいという意識が強いと言われるモン族。永い歴史の中で中国から移動し、世界へ広がりながらも、様々な独自の習慣を守っています。刺繍はその中の一つです。この村で働いている人と、この楽しいポーチを見ながら、これからもこの習慣が残っていって欲しいと強く思いました。

Written by 渡辺ちひろ