第11回 作り手を訪ねて(ラオスの森編〜パート1)
〜アジアの手仕事の魅力/クラフトエイドのフェアトレード〜
焼畑をしながら山々を転々と移動し、森の恵みを大切につかって暮らしていたモン族の人びと。文字を持たない彼らが自分たちの生活や歴史を伝えていく手段として、アップリケや刺繍が発達したと言われています。
モン族の人びとが刺繍をするきっかけとなったのは、モン族の暮らしや生活の知恵が記載された本が消滅したからという説があります。モン族の人びとが中国から移住をするときに、その本がなくなってしまった、もしくは、牛やねずみに食べられてしまったからといわれています。*1
*1ルアンパバーン県で開催されているモン族の織物展覧会からの情報
また、ある説では、モン族の多くの人びとが中国に住んでいたころ、中国語以外の言語を使用することが禁止されていたことがきっかけであるとも言われています。
モン族の女性たちは紙に変わる方法を用いて、筆記を保存する方法を模索していたところ、洋服の上に刺繍をすることを思いついたそうです。洋服であれば、紙とは異なり、破れたり紛失してしまうことが少なく、どこに行く時も着ていけます。この当時に使われていた刺繍は、現在でもモン族の民族衣装に使用されています。
事務所を覗いてみよう!
1970年代、ラオスは激しい内戦状態となり、多くのモン族が隣国のタイに難民となり流出しました。『CAMA CRAFTS』は難民キャンプから帰還したモン族の人びとと、ラオスに暮らす他の民族の人びとが一緒に暮らしていけるようにと立ち上がった生産団体です。定期的に遠方の村を訪問し、仕事の発注、材料の提供、技術指導の他、生活のサポートを行っています。
ラオスの首都ヴィエンチャンにある事務所には、それぞれの村で仕上がった刺繍生地が届きます。洗濯やアイロンがけなどの下準備を行い、縫製を担当している工房に送ります。
また、刺繍の種類やデザイン、枚数、仕上がった時に作り手が受け取る工賃を記載した伝票と生地をセットで束にし、刺繍を担当している村に届けています。特に工賃をしっかり記載することで、勘違いなどのトラブルが発生しないように努めています。
事務所の中にはSVA(シャンティ国際ボランティア会)の貼り紙が貼ってあるロッカーも。中には、これから届ける生地のセットや在庫が大切に保管されていました。
現在販売されている『ラオスの森ポーチ(アニマル/緑/赤)』はこのロッカーに保管されていた商品のひとつです。
いざ出発!
今回の出張では、クラフトエイドの『ラオスの森ランチトート』の刺繍を担当している二か所の村を訪問します。四駆の車でないと、村に続く急坂を登りきれないとのこと。デコボコ道を覚悟していざ出発です。
朝の渋滞を抜けて30分ほど経つと、舗装されていない赤土の道路に。陥没している部分を避けながら慎重に車は進んで行きます。
途中、車が数台乗れるミニフェリーで川を渡り対岸へ。刺繍の村まではなかなか遠いようです。
タンピョウ村に到着
大きな道路から細道に曲がりと、フェンスに囲まれた小さな集落に到着。木造作りの家屋が数件立ち並んでいます。ここがモン族の家族が数世帯暮らしているタンピョウ村です。タンピョウ村と呼ぶ人もいれば、他の名前で呼ぶ人もいて、どっちが正しいかわからないけど、とりあえずタンピョウ村で大丈夫と担当者の方が教えてくれました。
荷物を送る際はどうなるんだろうと、少しラオスの住所事情が気になるところです。
足元を走り回っている鶏や、木陰で休む犬。なんとものどかな空気が流れていました。
ちょうど雨期に入る少し前の時期で、村の人たちは田植えに行ってしまっているとのこと。畑は村から離れているため、一度農作業に出掛けると何日も泊り込みで帰ってきません。刺繍の作り手の女性たちもほとんどが村を離れていましたが、二人の若い女の子が私たちを出迎えてくれました。
タンピョウ村の刺繍
ラオスの森シリーズは、クラフトエイドの人気商品の一つです。動物が刺繍されたのアニマルシリーズと、民族衣装を着たモン族の人たちの生活風景が刺繍されたライフシーンの二つのパターンがあります。
あらかじめプリントされた下絵にそって、作り手が好きな色で自由に刺繍を刺していきます。下絵のプリントも数種類のパターンがあるので、組み合わせは無限大。どれも一点モノの特別な刺繍に仕上がります。
動物は、犬、牛、鶏、サル、ウサギ、クジャク、ヤマアラシ、ゾウなど、実際にラオスに生息している動物たちですが、たまに何の動物かがわからない謎の生物も...。「これは何の動物だろう...??」と作り手と一緒に思わず笑ってしまうことも。しばらく刺繍を刺している様子を見学させてもらいました。
布は『CAMA CRAFTS』から提供していますが、刺繍糸は作り手自身が準備しています。以前は『CAMA CRAFTS』から提供していたそうですが、作り手によって刺繍糸を使う量が違うため、管理が難しかったそうです。確かに、動物のサイズや刺繍の密度も一つひとつ違っています。
作り手を取り巻く環境
村の人たちは基本的に農業を生業としていて、自給自足の生活をしています。お米が不作の年もありますが、基本的に食べる物に困ることはありません。しかし、貨幣文化が根付いた現在、現金収入を得る機会が少ない少数民族の人たちには大きな負担となります。
電気代、ガソリン代、子どもたちのための教育費、医療費、また、農作業の農具や肥料などの購入費などには現金が必要になります。ラオスでもガソリン代が高騰しており、町に買い物にでることも負担になっているそうです。女性たちが刺繍で得る貴重な現金収入は家族の大きな支えになっています。
また、作り手の不足も課題になっています。
コロナで熟練の作り手が亡くなってしまったこともあり、年々、刺繍の担い手が減っています。すぐに新しい作り手を増やすことは出来ません。手間と時間がかかる刺繍を担ってくれる作り手が安心できる環境が作れるように、クラフトエイドでは、作り手の生活や文化を大事にし、生活が向上するように生産価格を保証するように心がけています。そして、クラフトエイドが作り手とお客様の架け橋になり、一方的な支援にならないように相互理解の活動を続けていくことが、作り手の自信と誇りにつながり、新しい作り手を育てていく手助けになると信じています。
次回はもう一つのモン族の村と刺繍の下絵を描くデザイナーについてのコラムを掲載します。